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おおいわのこめんと (2006-09-15)


2006-09-15

[Misc] 平成18(し)202 特別抗告事件 棄却決定

敢えてこういうタイトルにしてみる。……といいつつ、今日の日記の本質はまさにこのタイトルなんで。

今回の最高裁の決定、結果だけは極めて重大なんですが、その実体は 上告棄却ではなくてあくまで「控訴棄却の決定*1に対する特別抗告棄却の決定」……つまり、手続き論なんですよね。 「出すべき書類を出さなかったから受け付けられませんよ、さよーなら」と言う決定の確定であって、 それ以上のものではないわけです。*2

で、今日の僕の感想と日記の主旨を先に書いておくと 「弁護士ふざけんな(被告人保護のロール放棄の観点から)」ですなぁ。 ある意味で、「被告人は酷い弁護人に権利を妨害されても割と手が出せない」というのを 実証されてしまったわけですし、我々一般市民には「地下鉄サリン散布事件の容疑者がマトモな形で 有罪または無罪の確定判決を受ける」という決着を永久に奪われてしまったわけですからねぇ。 いろいろな意味で、社会的にきちんと決着をつけておくべき事件だったと思うんで、 その点でも「ふざけんなー」ですね。

もっともここから下の議論については僕は法の専門家では全くないわけで、間違ってたらごめんなさい、なわけですが。

そもそも控訴趣意書は実質的な控訴の意思表示の文面であって、 実際にも刑事訴訟法で定められたいくつかの限られた許される控訴理由のうちの どの理由で控訴をするかを宣言する書類なわけで、これ出さない控訴手続きはあり得ない。 したがって「意思疏通ができないから趣意書が出せないという」主張自体が 「理由はないけど控訴しました」と言う意味になるんで初めからおかしいんですよね。 というのは、「控訴は理由がないとできない」と刑事訴訟法で定められているわけなので。 また、控訴の申し立てをする人は「被告人」か「弁護士」と定められていて、 今回のケースは後者なわけだから、趣意書は「弁護士が出す」書類である、と言うのも重要かと思います。 被告人と打ち合わせる蓋然性はあっても義務的な意味での必要性はないわけですね。

まして、「書類が出なければ決定で控訴を棄却しなければならない」と明示的に命令されている以上、 極論を言えば東京高裁は今回どんなに被告人を裁いてあげたくても却下せざるを得ない (そうしないと裁判所が法律違反を犯してしまう)状態だったわけで、 訴訟指揮とかそれ以前の問題なわけです。ま、実際はどうしても裁くというのであればなんとか裁くことはできたんでしょうけど……。

そういうわけで、今回の事件、「被告に公判の場での防禦の機会を与えるべき弁護士が超巨大チョンボをやって、 被告人が控訴審を受けるたった一度の貴重な機会を奪った」というのが本質でしょう。 実際の問題として、社会正義とかそういう点は一切無視して純粋な戦術論として考えて、 弁護方針を「なんとしてでも死刑確定・執行は回避する(必要なら死ぬまで引き延ばす)」という点に 置いたとしてもですね、いくらでも言い訳がましいこと書いてでもとにかく趣意書を出してしまえば控訴は成立して、 あとは公判が始まってしまえば、心神喪失を理由に公判停止の申し立てでも何でもできた (それこそ診断書とか出して停止の是非で延々と議論できた)はずなんで、 どう考えてもそっちが正解だったはずなんですが、今回の弁護士の対応は 僕にはやっぱりまったく理解できないです。

あと戦術として、やっぱり棄却理由でも触れられていますが、

同日の裁判所と弁護人との打合せの席上,弁護人は,控訴趣意書は作成したと 明言しながら,原々審の再三にわたる同趣意書の提出勧告に対し,裁判所が行 おうとしている精神鑑定の方法に問題があるなどとして同趣意書を提出しなかった

これも大チョンボでしょうね。自ら「出せないのではなく出さない」というのを 宣言してしまっているわけですから、この時点で敗北決定かと思います。

で、先頭で書いておいた日記の主旨「弁護士ふざけんな(被告人保護の責務放 棄の観点から)」に戻りますが、本来なら「申し訳ございません、私達の判断ミスで 訴訟を受ける機会を失わせ死刑を確定させてしまいました」と関係者に土下座 して謝るような状況だと思うんですけど、こういう状況にしておいてまだ裁判 所批判ですか? と言う点がまったく信用できないわけです。 なにがやりたかったんだろうねぇ……。

さて、残された被告人側の戦術としては、刑事訴訟法 435条の再審理由として挙げられている

  1. 原判決の証拠となつた証拠書類又は証拠物が確定判決により偽造又は変造であつたことが証明されたとき。
  2. 原判決の証拠となつた証言、鑑定、通訳又は翻訳が確定判決により虚偽であつたことが証明されたとき。
  3. 有罪の言渡を受けた者を誣告した罪が確定判決により証明されたとき。但し、誣告により有罪の言渡を受けたときに限る。
  4. 原判決の証拠となつた裁判が確定裁判により変更されたとき。
  5. 特許権、実用新案権、意匠権又は商標権を害した罪により有罪の言渡をした事件について、その権利の無効の審決が確定したとき、又は無効の判決があつたとき。
  6. 有罪の言渡を受けた者に対して無罪若しくは免訴を言い渡し、刑の言渡を受けた者に対して刑の免除を言い渡し、又は原判決において認めた罪より軽い罪を認めるべき明らかな証拠をあらたに発見したとき。
  7. 原判決に関与した裁判官、原判決の証拠となつた証拠書類の作成に関与した裁判官又は原判決の証拠となつた書面を作成し若しくは供述をした検察官、検察事務官若しくは司法警察職員が被告事件について職務に関する罪を犯したことが確定判決により証明されたとき。但し、原判決をする前に裁判官、検察官、検察事務官又は司法警察職員に対して公訴の提起があつた場合には、原判決をした裁判所がその事実を知らなかつたときに限る。

のどれかを理由に再審を訴えるしかないけど、使えるのは 6. くらいしかないよなぁ……。 *3

*1 内容審査の結果の判決ではなくて、手続き違反による門前払いの決定、ということね。

*2 しかも、最高裁は今回、特別抗告棄却の決定理由で弁護人の3点の主張を否定していますが、実際は「念のため検証してみた」という性質で、真の棄却理由は先頭に書いてある「単なる法令違反、事実誤認の主張で抗告できる理由に当たらない。」 (憲法違反でしか特別抗告はできない: 妥当性の審理は高裁の異議審でしか行われない) なんで、実体的には主張の審査をしているとはいえ、少なくともフォーマット上はさらにメタレベルの高い手続き論の領域です。

*3 正直、この条文読むまでは「弁護士総取り替えをした上で、『弁護士が酷かったんで控訴審受ける機会逃したんで、職権で再審認めてくださいよ』とお情けちょうだいモードで訴える」というのはありか(裁判所も超重大事件なので認める余地はあるかも知れない)と思ってたんだけど、実際は再審開始決定に形式的な段階で職権を発動できる余地ってほとんど無いのね……。

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あたぴぃ (2006-09-17 17:01)

まあ、明らかに弁護士の作戦ミスです。おとなしく控訴趣意書出して二審やって上告して、とやっていれば、ここまで大きな規模の事件であれば判決確定前に被告が自然死してもおかしくないなぁと思っていたのですが、この調子だと遺族・被害者が生きている間に執行されちゃいそうですね。
再審請求のかかった死刑囚は死刑執行が停止される「こともあります(確か義務ではなかった)」が、明らかな引き延ばし戦術として再審制度を濫用するようなケースにまでこのルールが適用されるとは…考えにくい、です。

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